わたしはわたし👞

~国内外を転々としながら楽しい生活をめざして奮闘中~

ある香港人の処世術

パスタ国で生活するにあたって、言語が通じないことの不安を解消すべく、ある香港人の知り合いの話を聞くことにした。

彼は、芸人の鈴木ウドをもうちょっとワルにしたような風貌で、私と同学年の40歳。日本でダイビングショップを経営しながら暮らして8年になる。10年前まで、世界中を転々としていて、日本にたどり着いた頃には所持金が底をついていたのだとか。それでも手持ち金2万円でなんとかダイビングショップを開店し、もうすぐ香港にいる母親に家を買ってやるというのだから大したもんだ。

日本語はあまり話せないという彼が、一体どのようにして今の生活を作ってきたのか、いろいろと聞いてみたい。

「さっそく質問するけれど、日本語が話せなくて、孤独じゃない?」

彼の顔には「うぅっ・・・」という、軽いジャブを食らったような表情が一瞬浮かんだが、すぐに表情を立て直してこう答えた。

「香港人や台湾人をターゲットに商売をしていて忙しいから、言語に不都合はあまりない」

日本人とそんなに交流できなくても、中国語や英語を話す外国人と飲みに行ったり、つるんだりしているとのこと。ふんふん、言語が通じる人と交流すればいいのね。

「そのスキューバダイビングショップのビジネスは、日本に来る前から持っていた構想なの?」

「日本に来てからやろうと思ったんだよ。日本のダイビングショップは、外国人旅行客のニーズを満たせてなかったから」

彼は長いことダイビングをしているのだそうで、日本でダイビングをした時に「もっとこうだったらいいのにな」と思うことがあったのだろう。自分の理解できる分野で、言語が通じる民族を対象にして、どんなビジネス機会があるのかを考えたというわけか。私もパスタ国で日本人向けに、どんなことで役に立てるのか考えてみようかな。

ちなみに、彼はスキューバダイビングショップのビジネス経験はゼロだったそうだ。ただ、人脈がとても広く、いろんな人がサポートしてくれたらしい。自分が持っているリソースを最大限活用すべしと。

「世界を転々としながら暮らしていて、大半の人が大切にしている生活の安定とか保証とかと無縁のように見えるが、そういうものはいらないのか」

と聞くと、

「僕はなぜ日本人がフルタイム勤務にこだわるのか理解できない。パートタイムでも、フルタイムと収入が同等かそれ以上なら、そっちの方がフレキシブルでいいじゃないかと思う」

どこかの会社でマネージャーをしていた元カノが、残業代も出してもらえずに、あまりにも長時間労働をしているのを見て「コンビニで同じ時間働いたら?その方が収入が高くなる」と言ったら激怒され、破局したとのこと(そりゃあそうだろう)。

彼が大事にするのは「いくら稼げるか」という数字が全てであって、世間体とか、フルタイムとか、どこそこの会社に勤めているとか、一銭も金にならないことはどうでもいいようだ。

「仕事が自分のアイデンティティになっている人は多いからね。それにフルタイムなら、ボーナスが出たり、福利厚生が手厚かったりするし、パートタイムよりも生活の保証があるから」

と言ってみたけれど、暖簾に腕押しだった。

「職業は真のアイデンティティじゃない。保証が欲しければ、自分でより多くの金を稼いで増やすなり、保険に入るなりすればいいだろう」

この人はきっとこれまで、社会や会社から与えられる保証などあてにせずに、自力で生きてのびてきたのだなぁと感心してしまう。

最後に彼は二ッと笑いながら言った。

「何が自分に向いているかは、やってみないとわからない。いろいろと試してみるべきだよ。いつ死ぬかわからないのに、会社に長い時間拘束されて、やりたいことができなかったら、自分の人生に何も残らないだろう?」

今日、彼の話を聞いて、保証は自分で作る生き方や、自分にとっての実利(彼の場合は金とのことだが)に関係のないことに囚われないことなど、いろいろと参考にしたいことがたくさんあった。

私は彼のようには生きられないが、困ったときに「あの香港人なら、こういう時どう考えるだろうか」という新たな視点を得ることができたと思う。

言語の通じない日本で立派に生きている彼を見て、私もきっとうまくやれるに違いないと、どこか安心したのだった。