昔、シンガポールに住んでいた時に、日本が恋しくなると「マ・メゾン」という日式洋食屋に時々行った。びっくりドンキーをもっと洗練させたような雰囲気で、カウンター席にひとり腰かけて、いつも「OMU-RICE(オムライス)」を注文した。
シンガポール人が作ってくれるのだけれど、日本人の私が作るよりも上手。半熟のふわふわ卵に大きめの鶏肉と、みじん切りが面倒なのか、スライスした玉ねぎが入っていた。テーブルに運ばれてくると、わぁ~っ!と手を叩きたくなるほど、見た目もきれいなのだ。このオムライスを一口、また一口と食べているうちに「あぁ、日本の味だなぁ」と、じんわりと心が温かくなって、少しだけ元気になった。
その後、日本に帰国してから何度もオムライスを食べているが、シンガポールで食べていた「マ・メゾン」以上においしいオムライスには巡り合っていない。多分、これからも巡り合わない気がする。シンガポールで食べていたオムライスにはたくさんの思い出が詰まっているので、特別な味として記憶されているだろうから。
シンガポールに住んでいた頃は、お茶やランチをするシンガポール人の友人がいたし、日本語教師とライターをしていたから、ずっと家にいて何もすることがないというわけではなかった。週2日、中国語会話学校に通ったり、旦那が出張で不在になれば、ふらっと近隣国を旅行したりして、はた目から見れば自由気ままな楽しい生活に映ったかもしれない。
しかし、実際には、異国生活の孤独を紛らわせるのに必至だった。何かしていないと不安だったので、あれやこれやといろんなことをして、意味もなくその体験をブログに綴ったりもした。しかし、そういう中身のない活動に空虚感を覚え、時々、発作が起こった。
「あぁー!!日本に帰りたい(涙)」
そんな時に「マ・メゾン」に駆け込み、いつものオムライスを注文し、日本を想いながらしみじみと食べた。すると、いくらか落ち着いた。今思えば、このオムライスは、私の精神安定剤だったのだ。
今「マ・メゾン」のオムライスを食べても、当時と同じ味がするだろうか。それとも、もう役割を終えて、当時ほどおいしく感じないだろうか。
今度、シンガポールを訪れたときに、試してみたい。