「ナッツを1つもらえますか」
「ちょうど無くなってしまいましたので、すぐにお持ちします」
飛行機が離陸してから、少し眠ってしまったようだ。起こさないようにと、CAさんは私にナッツを配らなかったらしい。
通りかかった別のCAさんがナッツを持っていそうだったので、もう一度、1つくれと言ったら、なぜか慌てて2つもくれた。
「何回も主張してくるから、”この客はヤバい”と思って2つ渡したんだよ」
と旦那。
そんなことないだろう。ただナッツをくれと言っただけだと思いながら、白ワインを飲んでいると、なぜかこれまた別のCAさんが「お待たせいたしました・・・」と言って、3つ目のナッツを持ってきた。
今日から3年ぶりに、古巣のシンガポールへ3泊4日の旅に出る。
と言っても、ほとんど観光をする予定はなく、シンガポールに住む友人たちに会いに行くのが主目的だ。
6時間のフライトを経てチャンギ空港に到着すると、「あぁ、こんなんだったなぁ」と一気に懐かしさと安心感がこみ上げてきた。ホテルのような絨毯が敷かれた床や整然とした雰囲気。住んでいた頃から、何も変わっていない。
タクシーに乗り込み、高層ビルやらショッピングモールやらを通り抜けて、ホテルに到着。さっそくチキンライスを食べに行くことに。
自分の中国語がどれくらい上達したのかを測るために、ドキドキしながら中国語で注文してみる。
「这个套餐一个,白切鸡和这个烤的鸡。还有,一瓶老虎啤酒和・・・(このセットを1つ、チキンは茹でたのとローストのやつを。それからビールと・・・」
「好的。请稍等(かしこまりました。少々お待ちください)」
注文し終わった後、旦那がおおぉぉ~!!と言って拍手をした。あわあわしながらも、なんとか中国語で注文できたことが素直にうれしかった。以前、シンガポールに住んでいたときは、中国語で注文すると「ハァ~ンッ!?」とよく聞き返されたものだった。それを思えば、なんたる進歩。
運ばれてきたチキンライスをむさぼるように食べていると、「そうそう、こういう味だったなぁ」と再び懐かしくなった。昔は、ごはんやチキンをおかわりしたのだけれど、今日は疲れているのか歳を取ったからなのか、出てきた料理で満腹になってしまった。
あぁ~疲れたとホテルに戻り、紅茶を飲みながらボーっとしていると、いろんなことが頭に浮かんでくる。
まず、シンガポールに戻って来たというのに、思っていたほど感動していないことに気づいた。あたかも昨日までここに暮らしていたかのように、今すぐにでも元のシンガポール生活に戻れそうな気がした。
それから、シンガポールから日本に帰国する際に「日本でやってみたいことリスト」を作ったはずなのだけれど、一体どのくらいをやったのだろうか。日本の郷土料理を食べるだとか、日本の伝統行事を楽しむだとか、いろいろ書いたはずだ。日本の生活にどっぷりと浸かっているうちに、不満ばかりを並べ立てて、日本の生活を楽しむことをすっかり忘れてしまっていた。
あと、日本へ帰国した自分に向けて手紙も書いたが、あれはどこへいったのだろう?確か注意事項を3つくらい書いたはずだったが・・・。
ベッドの中でそんなことを考えているうちに、シンガポール1日目が終わっていった。