わたしはわたし👞

~国内外を転々としながら楽しい生活をめざして奮闘中~

幸せの国ブータンで味わう地獄の時間

「途中、チェレラ峠で休憩しますが、トイレはありません。緊急の場合は、青空トイレになります」

おいおい、片道3時間もかかるというのに、トイレが一切ないなんて、どうしてくれるんだ。私の膀胱の弱さを知っているのか?

ブータンへ6泊7日の旅行に来ていた。車を貸し切り、ガイドとドライバーと私の3人で、チベット仏教寺院や市場、国技のアーチェリーなどを見学し、今日はとある村へピクニックに行く旅程になっている。

ブータンはどこも田舎で、首都ティンプーにさえ信号がなかった。街には、チベット文化圏独特のデザインが施された建物が並び、人々は民族衣装を着て生活している。道端には野犬がウロウロしていて、ホテルのシャワーの水は、30分くらいしないと湯にならない。当たり前だけれど、日本のように、コンビニが一定間隔であるはずがなかった。

首都ティンプーのメインストリート

車は目的地をめざして、ジュニパーやサイプレスの木々に囲まれた田舎道をどんどん進み、馬や牛、ヤックとすれ違った。珍しくエベレストが見えるとかで、車を停めて写真を撮らせてくれた。しかし、いろんなものを見聞きしている間も、私の頭の中は「青空トイレになったらどうしよう」という恐怖でいっぱいだった。

チェレラ峠に着いた時、私の膀胱は、既に7割まで満ちていた。

30分休憩するから散策しておいでと、ガイドに車から放り出されたが、外は恐ろしく寒い。耳が冷たくなって痛い。よく見ると、看板には「標高3988m」と書いてあるではないか。富士山の山頂よりも高い場所で、一体何を散策すればいいのだ・・・。

雪こそ積もっていなかったが、そこにあるのは、土道と石ころと、風に揺れる5色のタルチョだけ。遠くに見えるエベレストを眺めながら、私の体はどんどん冷えていった。そして、膀胱の満ち度は9割になった。

「あぁ!もはや、これまでか・・・!」

車は出発したものの、あと1時間くらいかかるはず。早く着いてくれ!と祈っていたら、またもや停車。今度はなんと、ティータイムだそうだ。ポットに入れてあった熱々のお湯で、ミルクティーを作ってくれるという。

「何してくれてんねん!!」

と叫びたい気持ちを抑えて、涼しい顔でお茶をいただいた。しかし、ミルクティーのせいで、膀胱は満タンになった。

「あぁ!もう無理!トイレに行きたい!!」

あまりにも苦痛で記憶から消去されたのか、この後のことは、よく覚えていない。確か村まで持ちこたえて、便器こそあったものの、これをトイレと呼んでいいのか分からないような場所で、用を足したと思う。

かたくなに青空トイレを拒んだ私に、ガイドがキョトンとしながら言ったのが印象的だった。

「なんでそんなに青空トイレが嫌なの?」

改めて日本とブータンの文明の違いを感じたのだった。