約1ヵ月の海外周遊の出発前日に、衝撃の事実を聞かされた。
なんと夫が今春にパスタ国へ赴任になったのだ。
旅立ちにワクワクしていた私の気持ちは、一気に混乱と不安に見舞われた。
英語の通じるシンガポールに住んだ時でさえ、新しい生活を作るのは本当に大変だったのだ。それが言語が通じないとなると、自分の言いたいことも言えないし、相手が何を言っているのかもわからない。パスタ国の市民にとって私は猿も同然。
あわわわ・・・。
こうなると、もうネガティブ思考が止まらない。
そんなに毎日パスタとピザばかり食べられないとか、チャイナタウンはあるんだろうかとか、中国人コミュニティに入れてもらえないだろうかとか(私は中国語を少し話すのです)。夫は仕事に忙しく、私は異国でポツンとひとりぼっちで、しまいには鬱病を発症するとか。
じゃあ、転勤族の夫にこれ以上、帯同できないとなると、次に一緒に暮らせるのは定年退職した後?そうなってくると、この結婚生活には一体何の意味があるのだろうとか。
突然、平穏な日常が壊れる恐怖でいっぱいになり、頭が混乱しているのに、目の前には約1ヶ月の旅行のために荷物を詰めた大きなスーツケースがある。
あと1ヶ月かそこらで、夫は遠い国行ってしまうというのに、私は海外旅行などに行っていいのだろうか。残り少ない平穏な生活を、日本で一緒に送らなくてもいいのか?
でも、もうシンガポール行きの飛行機のオンラインチェックインを済ませてしまったのだ。
あれこれと色んなことが頭に浮かび、ほとんど眠れなかった。
そして、一体どうすればいいのかわからないままとりあえず空港に向かい、飛行機に乗った。
しかし、もう海外旅行なんてどうでもよくなってしまった。
今はただ、これまで送っていた普通の日常生活が続いてほしいだけだ・・・。
夜遅くても夫がきちんと家に帰ってきて、今日あったことを少しだけ話し、週末は一緒に銭湯に行ったり、アウトドア用品店に意味もなく連れて行かれたり。そんななんでもないけれど実は大切だった日常が、もうすぐ失われようとしていることがただ悲しかった。
今回、旅に出るのが遅すぎた。夫の人事異動で人生がまた動いてしまわないうちに、旅立つべきだったのだが、いろんな事情があって出発が遅れたのだ。
何の罪もないというのに、機内で海外旅行を楽しもうと、キャッキャッしている他の乗客たちが恨めしい。そして、そんな心のすさんだ自分が嫌になった。
あれこれといろんなことを思いめぐらせているうちに、飛行機はホーチミンを経由して、シンガポールに着陸しようとしていた。