「Tushita Meditation center」という瞑想センターは、私が泊まっているマクロードガンジの宿から、急な林道を約30分あるいたところにあった。
プープーやかましいクラクションが鳴り響く下界とは違って、ここはとても静か。この瞑想センターでは、宿泊型の10日間の瞑想コースに加えて、飛び込みでの早朝瞑想も行われているのだそう。飛び込み瞑想に参加したかったのだが、あいにく9時のスタートに間に合わなかった。
敷地内にはカラフルなチベット仏教寺院のような造りの瞑想施設や仏像、図書室などがあり、宿泊者以外も自由に散策できる。私は見晴らしの良いベンチにしばし腰掛けて、ぼんやりすることにした。
自然と静寂に包まれながら、遠くの山を眺めていると、心が穏やかになる。その一方で、私はなんて欲深いのだろうと内省する。
こうしてインドにも来られるほど恵まれた環境にいるのに、今の生活を変えたいだとか、バリバリ働いていた頃の自分を取り戻したいだとか、自分に足りないものばかりをいつも追い求めている。
仕事や周りの人を変えようとするのではなく、変わらないといけないのは自分自身ではないのか…。などと反省しながら、そろそろ下界に降りることにした。
疲れたので、下界に降りたところにある小さなチャイ屋で、チャイを飲んで休憩する。お兄さんが鼻歌を歌いながら、カルダモンやジンジャーのパンチがきいたおいしいチャイを淹れてくれた。しかも35円という安さ。
お兄さんはご機嫌な様子で、オムレツを焼いたり、鍋をあけて何かの蒸し具合をチェックしたりしていて忙しそう。と思いきや、突然、焼いたオムレツを持って、私の隣に腰掛けた。そして、持参していた弁当とともに食べ始めたではないか。自分用やったんかい。
このお兄さんはきっと、海外旅行をすることもなく、毎日ここで、チャイを淹れたりオムレツを焼いたりする生活を繰り返しているのに違いない。にも関わらず、どこか楽しげに見えて、羨ましかった。私は明日もまた、ここにご機嫌なお兄さんにチャイを淹れてもらいに来るだろう。
お腹が空いたので「ルンタ」という日本食屋でランチにすることにした。海外旅行中にほとんど日本食を食べることはなかったが、今回は長時間のフライトで食が乱れてお腹の調子が悪い。こんな時は日本食が恋しくなる。
12時の開店と同時に店に行くと、すでに2人の現地人のお客さんが外で待っていた。おかみさんが日本人で、旦那様はチベット人のようだ。
本日の日替わり定食は、巻き寿司定食。のり巻きをひと口食べると、どこかのお母さんが作ってくれたような家庭の味がした。みそ汁が胃に染み渡り、体がよろこぶ。
店内には私以外にも、インド人女性や西欧人のお坊さん、チベット人などの常連さんがいて、ここは皆の居場所になっているようだった。常連さんと世間話をしながら食べるごはんは、なお美味しい。
店を出る時に、おかみさんに「またね」と言ってもらえて、なんだか心が温かくなった。明日もまたここで昼ごはんを食べよう。
瞑想センターに小さなチャイ屋、日本食屋ルンタ。ダラムサラに、明日もまた行くことができる自分の小さな居場所ができたみたいで、嬉しくなったのだった。
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