わたしはわたし👞

~国内外を転々としながら楽しい生活をめざして奮闘中~

ナンパ男の間違い

「暇をつぶすには才能がいる」

と、村上春樹が本の中で言っていた。私はまぁまぁこの才能を持っていると思う。しかも、暇をつぶしていると、必ず面白いことに出くわす。

今日は、ずっと気になっていた、個性的な小さな本屋を訪ねることにした。

皆、着飾って神戸の街を歩いているのに対し、私は少しヘンテコな服装で来てしまった。UNIQLOで売っていた、村上春樹デザインの猫がプリントされたTシャツを着て、左の太ももにシミが付いたズボンを履いていたのだ。ちなみにこのシミは、先日、台湾料理屋で飲んでいた紹興酒を、不注意でこぼしたものです。そんな自分の姿を店のショーウィンドウで見た時に思った。

(ヤバい。腹が出てる)

目当ての本屋に入ると、アロマのいい香りがした。肩の力が抜けそうな音楽が流れていて、本棚には古本や新刊、CDやZINEなども並んでいる。おしゃれで個性的なのだけれど、私にとっては少し実用性に欠けるラインナップだった。淡路島へ出稼ぎに出て、体のあちこちを痛めながら稼いだ金を無為に使いたくなくて、店を後にした。

(まだ15時半か。ジャズ喫茶にでも行こうかな)

しかし、夕方、近所の立ち飲み屋で、日本酒を飲みながらチーズを食べる予定だったので、帰ることにした。

駅に向かって歩いていたら、声をかけられた。

「すみません!」

はい?と振り向くと、白いワイシャツを着た、おそらく30代前半と思われる男性が立っている。会社員だろうか。

「何か用ですか?」

「あの先ほどお見掛けして・・・世界一の美女だと思って・・・お茶でもいかがですか」

と、男性は少し緊張した様子で言った。

世界一の美女だと~?よぅ、そんな歯の浮くようなことを言えるもんや。猫が描かれたTシャツとシミ(それも紹興酒の)が付いたズボンを履いている、39歳の既婚者やぞ。それに、外見が良いという理由だけで、興味を持たれても全く嬉しくない。

「結構です。別の世界一の美女を探してくださ・・・って、最後まで聞かんかい!」

私が話している途中で、男性はそそくさと遠くへ歩いて行ってしまった。背中に”やっぱりだめだったか・・・”と書いてあるように見えた。

帰りの電車の中で、色んなことを思った。

まず、自分が知らない間に、男に後をつけられていたのかと思うと、少し怖い。

ナンパ男と茶を飲む気は毛頭ないが、彼はあの時、何と言うべきだったのだろうか。どんなふうに声をかければ「茶の一杯くらい飲んでやろうか」と思わせられたのだろう。いや、どれだけユニークなことを言ったとしても、路上で突然、声をかけるという手法は、ナンパ待ちの女に声をかけない限り、かなりの確率で成功しないのではないか?

もし、彼と、読書会や立ち飲み屋などで知り合っていたら、不審がらずに普通に会話をしただろうに。私はひとりで小さな飲食店へたまに行くのだけれど、見知らぬ常連客のおっさんが酒をおごってくれることが割とある。店主と常連客と私で楽しくおしゃべりをしながら酒を飲んで、また店で会ったらよろしくね~といった感じで別れるのだ。

彼は、声をかける場所を間違えたようだ。

もし、またナンパしてくるような奴がいたら、こう言ってやろう。

「兄ちゃん。街中で声かけても、不審がられて成功せえへんで。女の子と交流したいんやったら、読書会とか女子がひとりでも入りやすいバーとかにでも行って、話かけたほうがええて」

それから、もうちょっと若い子に声をかけた方がいいと思うけれども。